実践経営術エッセンシャル/第17回「差別化とは何か」

今回のコラムでは、差別化を取り上げます。差別化は、イノベーションの実現に欠かせない要素のひとつです。イノベーションの実現には、付加価値と差別化が必要です。ふたつが揃うことで、はじめてイノベーションが実現します。

付加価値については、前回のコラムで解説しました。付加価値とは、企業の活動で発生した費用と価格の差分です。お客様が企業の活動に価値を感じるのであれば、高い価格を設定したとしても取引が成立します。企業は付加価値を極大化するために、3+1者まで視野を広げることが重要です。

実践経営術エッセンシャル版 第16回「付加価値とは何か」

【今回のテーマは差別化です】

差別化の失敗例

はじめに、あるスーパーの果物・野菜売場で起きた差別化の失敗例をご紹介します。地方都市にあるスーパーDは、近隣に競合店が複数ある激戦区に立地しています。それぞれのスーパーは得意な品ぞろえに違いがあり、スーパーDでは果物・野菜を得意としています。

スーパーDで果物・野菜売場を担当する若手社員は、南国フルーツの充実という計画を考えました。調べたところ、味がよく価格が手頃なスターフルーツを調達できそうです。スターフルーツは熱帯と亜熱帯に分布する果物で、断面が星型という特徴があります。

南国のフルーツといえば、マンゴーが代表格です。スターフルーツの認知度は、マンゴーに比べて著しく低いことが分かっています。流通量も同様に、マンゴーに比べ少数です。

Dの若手社員は、スターフルーツの珍しさに着目して仕入れを決定しました。計画の仮説は、多くのお客様が珍しいフルーツに興味を持ち、来店してくれるというものです。販売当日、売れ行きはどうなったでしょうか。

結果は、通常とほぼ同じ売上と来客数でした。果物・野菜売場の売上も大きな変化はありません。若手社員が果物売場を観察したところ、お客様はスターフルーツを珍しそうに見ていました。しかし、実際の購入にはいたらず、あわせて仕入を増やしていたマンゴーは完売しました。

閉店後、若手社員は上司からアドバイスを受けました。その内容は次の通りです。

差別化とは何か

差別化とは、独自の特長を打ち出す一連の活動です。この「特長」は、他とくらべて特に優れている点を意味します。別の言い方をすれば、特長とは長所です。ビジネスでは、自社の長所を見定めたうえで外部に打ち出すことが重要です。この他社との差を生み出す一連の取組みが、差別化になります。

差別化の目的は、ブランドの確立です。差別化が積み重なると、お客様の心に唯一の存在という認識が生まれます。お客様による自社や自社商品の特別扱いのことを、自社への忠誠心という意味の顧客ロイヤルティと呼びます。顧客ロイヤルティの高いお客様、いわゆるロイヤルカスタマーから長期的な支持を受けることにより、強いブランドが確立します。

ブランドは、差別化の積み重ねによって成立します。ここから、ブランドとは大小様々な差別化の集合体という見方もできます。ブランディングを差別化の視点でとらえれば、お客様の支持を受けるために展開する主体的な活動ということになります。売り手・買い手・使い手・周囲という3+1者から幅広く支持を受けることで、ブランドは強く大きく育ちます。

顧客ロイヤルティの醸成には、多くの労力と時間が必要です。差別化の施策は、効果が表れるまでに時間がかかります。一方で、多くの労力と時間を投入するからこそ差別化の効果が決定的となります。差別化の成功により、競争が有利になるのです。

差別化によるコモディティ化の回避

差別化の対になる現象がコモディティ化です。コモディティ化とは、差別化の失敗による商品の同質化を意味します。コモディティは日用品や必需品を指し、代表例として大豆やトウモロコシなどの農作物があげられます。コモディティは企業間の商品に違いを見出しにくいため、価格競争におちいりやすい傾向があります。価格競争に取り込まれることを防ぐためにも、企業は差別化を実現しなければなりません。

たしかに、当初から価格で勝負するビジネスもあります。しかし、成功の道筋が明確ではない、ガマンを前提とした安売りは危険です。圧倒的に安く製造できる、圧倒的に安く手に入る、などの「しくみ」は、それ自体が差別化の要素です。しくみを持たない企業が価格で勝負することは避けなければなりません。

差別化のポイント

差別化を考える際は、ふたつの側面から進めると効果的です。ひとつがライバルとの差別化、もうひとつが既存事業との差別化です。セミナーの受講者へ差別化の比較対象を質問すると、ライバルだけを答える場合が大半です。しかし、差別化の対象に自社の既存事業を含めることで、ステークホルダ(利害関係者)に対して自社の方針を明確に示すことができます。

①ライバルとの差別化

ここでは、ライバルの設定が非常に大切です。どの企業をライバルに設定するかによって、分析すべき項目や打ち出すべき施策が異なるためです。一案として、自分よりも少し規模の大きな企業をライバルに設定すると考えやすいかもしれません。

また、思わぬライバルの存在も検討します。思わぬライバルとは、代替品や代替する機能などです。お客様が求めているのは、具体的な商品に限りません。求める結果が手に入るのであれば、柔軟に手段を変更することもあります。有名な教訓のひとつに、「ドリルを買う人が求めているのは穴である」というものがあります。穴が空きさえすれば、手段はドリルに限りません。

②既存事業との差別化

ここでは、既存事業との違いを明確にします。まず、新規事業を定義することで、既存事業と区別します。このとき、新しい事業を評価するための数値について確認しておくことが大切です。売上や売上原価をはじめ、価格や販売個数なども確認します。

既存事業との差別化は、複数の切り口から考えます。切り口の例として、資産や商品・サービス、ビジネスモデルなどがあります。切り口を考えておくことで、差別化を比較する際のポイントが明確になります。

すべての企業に共通する、既存事業との差別化の軸が「新規性」です。企業の発展にはイノベーションが欠かせません。イノベーションのない企業は長期的に衰退するため、絶えず新たな取り組みを行うことが重要です。ステークホルダは、少なくとも過去より成長していることを企業に求めています。

【差別化のイメージ】

差別化の注意点

差別化の前提にあるのは、何かと比較することです。一般的に、比較対象としてライバルだけを設定しがちですが、実務においては過去の自分たちとも比較することが重要です。

差別化を検討するにあたり、注意すべき点をふたつご紹介します。ひとつは他社の差別化も考慮すること、もうひとつが差別化と奇抜な発想を区別することです。以下でそれぞれを確認します。

●他社の差別化を考慮すること

差別化を考えているのは他社も同様です。ライバルを含む、多くの企業がビジネスの成功を目指して最善の施策を考えています。自社のビジネスが属する業界では、それぞれの企業が似た発想を持ちやすくなります。そのため、それぞれの企業が似た差別化を展開することも珍しくありません。

当社では、他社の行動も含めて差別化の要素を「特長」としています。差別化の要素を自社の特長とすることで重複を防ぎ、成功の可能性が高まるためです。例えば、ターゲットを熟知している、独自の調達ルートを保有している、他社にはない有形資産がある、などの長所をひとつでも持っていれば、他社の模倣は困難です。自社の特長が他の要素と結びつき、仕組みとして成立するならば、他社の追随はいっそう困難になります。

●差別化と奇抜な発想を区別する

差別化を誤解しているケースとして、奇抜な施策を見かけることがあります。差別化とは特長を打ち出すことであり、奇抜な取組みで注目を集めることではありません。ブランドの確立していない企業が奇抜な施策を展開すると、混乱を招いたりイメージを傷つけたりすることが多々あります。

 

ここまで、差別化について解説してきました。差別化とは特長を打ち出すことであり、その活動は主体的に行うものです。ライバルを比較対象に考えがちですが、過去の自分たちとも比較することで内外に違いを発信できます。

どの企業にも特長があります。ただし、特長を明確に認識している企業は少数です。特長を見出し、選別するには外部機関の協力を得ることが近道です。ぜひ、当社を含め外部機関への相談をご検討ください。

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